Bathking in the sun.

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『崖の上のポニョ』って実は奥が深いって知ってる!?【前編】

崖の上のポニョ [DVD]

こんにちは,ジブリ大好きかなっぺです。

今週末はテレビで崖の上のポニョが放送されますね。

スタジオジブリ作品の『崖の上のポニョ』は,2008年に公開され,日本映画の歴代興行収入題5位となる155億円を記録した大ヒット映画です。

この映画は人間になりたいさかなの子ポニョが,5歳の男の子宗介と出会い,共に困難を乗り越えるというストーリーです。まるで絵本のような世界観や単純なストーリーにもかかわらず,作品を見た人々は,「結局何がいいたのか良くわからない」,「なんだか怖い。」といった感想を漏らす,不思議な作品です。

確かに一見単純な映画なのですが,「ただの単純なアニメ映画」ではなく,やはり宮崎駿監督,その他大勢のスタッフが5年もの歳月をかけて生み出した「大作」なのです。

シンプルに一見しただけではわからない,作品の「舞台裏」とでも言うべき点について,少し掘り下げて皆さんに知っていただけたらと思います。

 

まずは前編として,作品のテーマ,登場キャラクターのモチーフや作品の舞台,そして製作にかかわったスタッフについて紹介します。

 

 

作品のテーマは「初源を描いて神経症と不安の時代に立ち向かう」

監督企画意図 海辺の小さな町

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以下が,ポニョを制作するにあたり宮崎駿監督が提出した企画書です。

海に棲むさかなの子ポニョが、人間の宗介と一緒に生きたいと我儘をつらぬき通す物語。
同時に、5歳の宗介が約束を守りぬく物語でもある。
アンデルセン「人魚姫」を今日の日本に舞台を移し、キリスト教色を払拭して、幼い子供達の愛と冒険を描く。
海辺の小さな町と崖の上の一軒家。
少ない登場人物。
いきもののような海。
魔法が平然と姿を現す世界。
誰もが意識下深くに持つ内なる海と、波立つ外なる海洋が通じあう。
そのために、空間をデフォルメし、絵柄を大胆にデフォルメして、海を背景ではなく主要な登場人物としてアニメートする。
少年と少女、愛と責任、海と生命、これ等初源に属するものをためらわずに描いて神経症と不安の時代に立ち向かおうというものである。

宮崎駿

 

 元は「人魚姫」が土台にあるとのこと・

人魚姫(吹替版)

人魚姫(吹替版)

 

 少年と少女,愛と責任,海と生命。すべて世界の事象の大元にある,大きなテーマです。それらをこれでもか!と詰め込んだのがポニョなのです。

神経質になり,不安を持つ現代人に,このような「大きな視点」,「人や世界の変わらない根っこの部分」を忘れずに見つめなおし,力強く生きていこう!と勇気づけている作品なのです。

 

鈴木敏夫プロデューサーコメント 母と子

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上の「初源の属するもの」にはこの「母と子」も含まれているのでしょう。

宮崎駿監督は宗介に自分を,そしてトキさんに母親を重ね合わせてこの映画を作ったのですね。当たり前ですが,一つ一つのテーマに自らが向き合い続けていたのでしょうね。

それから明言はされてないですがポニョでは「生と死」や「神話」も初源のひとつとして描かれていると思っています。

 

制作時,宮崎監督は67歳です。この歳にして,これだけの熱量を必要とする作品に挑む姿勢に畏敬の念を感じます。また,その人生経験があったからこそ,このテーマを描けると言う事なのかもしれません。 

 

 

作画方法の見直し

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 宮崎監督はロンドンのテート・ブリテンで画家ジョン・エヴァレット・ミレイの代表作「オフィーリア」を見て衝撃を受け、「もう一度、手描きにこだわる」ことに作風を一転させました。これも「初源」ですね。

作画枚数(動画のみ)の比較

CGをほとんど使わず「手書き」にこだわって作画をすすめ,過去最高の作画枚数となりました。

崖の上のポニョ100分54秒 170,653枚
ハウルの動く城119分11秒  148,786枚
千と千尋の神隠し133分24秒 144,043枚
もののけ姫   124分35秒 112,367枚

 

キャラクターのモチーフ

ポニョの本当の名前は「ブリュンヒルデ

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ポニョの本当の名前は「ブリュンヒルデ」。神話に出てくる半神ワルキューレという神々の長女の名前からとられています。

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“宗介”は夏目漱石の『門』の主人公の“宗助”

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 漱石の、『三四郎』『それから』に続く前期3部作の3作目にあたる『門』の主人公の名は“宗助”
その宗助は「崖の下の家」に住んでいるというのです。
こうしてみると、字は違いますが、ポニョの主人公“宗介”のもとになったことは明らかです。

構想期間中に夏目漱石作品を読んでいたそうなので,その影響が見て取れますね。

門

 

 

フジモトは「海底二万マイル」の元ノーチラス号乗組員

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ポニョの父親フジモトは、ジュール・ベルヌSF小説海底二万マイルに登場する潜水艦、ノーチラス号の乗組員で唯一の東洋人だったという設定。作中でも「昔は人間だった」と語っています。

海底二万里(上) (新潮文庫)

海底二万里(上) (新潮文庫)

 

 

グランマンマーレは「オフィーリア」

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グランマンマーレは前述の「オフィーリア」がモデルです。

また,作画監督近藤勝也さんはグランマンマーレについてこう語っています。

グランマンマーレは神様のような存在なので,宮崎駿監督には当初,人間の姿で登場させることにためらいがあったようです。本体は巨大なナマズで,それが美女の姿を投影しているというアイデアも出ましたが,最終的にはストレートに女神のような姿で描くことになったわけです。

 

舞台は、広島県の「鞆の浦

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(引用元)

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2004年11月にスタジオジブリの社員旅行で訪れた瀬戸内海の港町である広島県福山市鞆の浦(とものうら)を非常に気に入り、ポニョの準備として2005年の春、鞆の浦の海に隣した崖の上の一軒家に2ヶ月間滞在し、さらに2006年夏、単身でこもったとのこと。

生命の源である海。その海と密接に関わりながら人々が暮らしを営んでいる「港町」という舞台が,この作品のテーマと強い親和性があったのでしょう。

 

精鋭ぞろいのスタッフ

作画監督 近藤勝也さん

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魔女の宅急便』以来のスタジオジブリ作品作画監督ですが,宮崎監督とは長い間タッグを組んできた方です。

「今回は海とかの水をひとつのキャラクターとして立たせなければならないので,水の表現は宮崎さんが踏ん張ってやられていましたね。僕はもう少し引いて,総合的にキャラクターを修正していました。映画はどうしてもキャラクターが必要ですから,そこは宮崎さんもわかっていますし。要するに,僕の作業は,最終的に塗る上薬とかニス塗みたいなものなんです。きれいに形が出来ているものに,またさらにツヤを出す。それが僕の一番大事な仕事で,そのためにレイアウトチェックをやって,源が修正では微妙なさじ加減で頬のラインを描いたり,肩のアウトラインを整えたり,目が違うと思って何度も描き直したりして・・・。微妙な所の加減が一番大事な,"お化粧"みたいなものなんだと思います。」と語っていました。

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近藤勝也さんがデザインしたポニョ(引用元)

「神は細部に宿る」とよく言いますが,宮崎監督と長年タッグを組んできたからこそ,監督が求める「細部」が分かる方なんですね。

近藤勝也ArtWorks玉繭物語&玉繭物語2 (DNA media books)

近藤勝也ArtWorks玉繭物語&玉繭物語2 (DNA media books)

 

 

美術監督 吉田昇さん

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ハウルに引き続き美術監督を任されています。

これまでのジブリはリアリティーのある描き方でしたが,今回は「緻密に描写していく背景ではなく,普段はあり得ない現象,宮崎さんは魔法と言っていましたが,そういうことが起きた時に成立する画面を考える,というのが最初のとっかかりでした」と語っていました。

「僕も他の美術スタッフも基本はフリーハンドで,定規はほとんど使っていません。一つの線でも太く入って,すっと細く抜けていくとか,そういう強弱をつけて一本調子ではない,表情のある線を描くよう心掛けました。実は色鉛筆も黒は使っていないんですよ。一見,黒いアウトラインに見える線も焦げ茶色とか,茶色っぽいグレーが主で,筆圧によって濃くなったり薄くなったりするんです。」

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建物はまっすぐではありません。背景に定規を使わないなんて,かなり型破りな発想です。

しかし,これがどこか絵本のような非現実的な,宮崎さんの言葉を借りるなら「魔法がかかった」世界観を生み出しています。映画を見て「なんだか不安になる」という感想を抱いた人は,真っすぐではない世界に,どこか不安定さや現実感の無さを感じたのも原因の一つかもしれませんね。

 

色彩設計 保田道世さん

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ナウシカから30年間,宮崎駿監督作品の色彩設計を担ってきた方です。

2016年に惜しまれつつも亡くなられましたが,ジブリの「色」を生み出してきた方だといっても過言ではありません。

ポニョで一番苦労したのが「水」の表現とのこと。

「海の中だからと言って,たとえばポニョが青みを帯びた色彩になったりすると,それはもうポニョではなくなってしまう。だから,ポニョが,バケツの中にいる時は,水の中も外もほとんど変わらない色彩にしていますね。」

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色彩設計においても,これまでの常識を打ち破るような,新たなことにチャレンジした作品だったとのこと。

 

また,音楽はご存知の通り,久石譲さんが手がけられています。

 

このように,宮崎監督が信頼を置くスタッフ達が集結して,阿吽の呼吸で細部に渡って監督の伝えたいことをくみ取り,それをどう表現するかに思いを巡らせて,この作品が出来ています。

 

以上,前編では,作品の奥深いテーマ,キャラクターや舞台設定,手書きへの原点回帰,新たな表現方法の模索,精鋭ぞろいのスタッフなどを紹介しました。

これだけでも,少し作品を見る目が変わったのではないでしょうか?

 

後編では,ストーリーについての様々な考察を紹介します。

一見単純なお話ですが,細かな言動や表現にそれぞれ意図やこだわりが隠されています。

後編はこちら!

『崖の上のポニョ』って実は奥が深いって知ってる!?【後編】 - Bathking in the sun.

 

参考資料

ポニョはこうして生まれた。 ~宮崎駿の思考過程~ [DVD]

ポニョはこうして生まれた。 ~宮崎駿の思考過程~ [DVD]

 

 ・作品解説 - 映画『崖の上のポニョ』公式サイト

・「崖の上のポニョ」 裏話が深すぎる!!! - NAVER まとめ

・崖の上のポニョ - Wikipedia