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旅行,時事,ゲーム,テクノロジー等について思ったことを書いています。

『カルト村で生まれました』/子供の成長環境,統制の厳しい組織に着目して読む

 何か漫画が読みたいと思い,おすすめ漫画を検索したらヒットした本。

『カルト村で生まれました。』

カルト村で生まれました。 (文春e-book)

カルト村で生まれました。 (文春e-book)

コミックエッセイは普段あまり読まないですが,そのキャッチーなタイトルに興味を惹かれました。

 

容は?

 「所有のない社会」を目指す「カルト村」で生まれ、19歳のときに自分の意志で村を出た著者が、両親と離され、労働、空腹、体罰が当たり前の暮らしを送っていた少女時代を回想して描いた「実録コミックエッセイ」。

 

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(無料立ち読みで公開されているページを載せています。)

〈カルト村ってどんなとこ?〉
●大人と子供の生活空間が別々 ●朝5時半起床で労働 ●布団は2人で1組
●食事は昼と夜のみ ●卵ミルクを飲ませられる ●お小遣いはもらえない
●すべてのモノが共有で、服もお下がり ●男子は丸刈り、女子はショートカット
●ビンタ、正座、食事抜きなど体罰は当たり前 ●手紙は検閲される
●テレビは「日本昔ばなし」のみ ●漫画は禁止、ペットも飼えない
●自然はいっぱい。探険など外遊びは楽しい♪

 

子供の成長環境は親に依存する

平成の時代にこんな生活をしている村があることを初めて知り,驚きました。作者の高田かやさんは,両親が村で結婚してから生まれた子供で,いわゆる「2世」です。生まれた時から村で暮らしており,一般の生活を知りません。となると,かやさんにとってはこれが「普通」の暮らしなのです。

大人が自ら村のビジョンに賛同して参画を決めるのは自由ですが,生まれてくる子供はその環境を選べません。成長環境については良くも悪くも完全に親に依存するのです。

ほとんどの親は子供の事を思って成長に適した環境を用意したいと思います。海外で活躍できるようにと,生活の場を海外に移す親なんかもいますよね。

幼少期の経験はその人の価値観に大きな影響を与えるとされているので,子供の成長環境は慎重に考えなければならないと感じました。

 

子供の成長を妨げる暮らし 

今回の「村」での生活は,子供の「自由」を制限する場面が多く見られました。しつけというには厳しすぎるルール。特に良くないと思った4つがこちら。

 

①親と暮らせない,少数の大人が多数の子供の面倒を見る。

 幼少期に親から見守られ,受け入れられる経験というのは未知の世界に踏み出すための大切な安全基地になると思っています。その親がおらず,少数の大人だけではおのずと個性を排除して皆と同じ行動をとるよう強いてしまいます。

 

 ②体罰

 少数で多くの子供を見なければならないため,統制を取るために暴力に頼る。子供は暴力に従わされます。

 

 ③朝食抜き

 朝食をきちんと取る,食べ物に関してひもじい思いをさせないというのも日々様々なことを学び,吸収していく子供の脳にとって,大切なことです。

 

 ④労働時間が長く,ルールが厳しすぎる,娯楽が少ない

 子供は遊びから多くの事を学習しています。遊びの天才です。労働時間が長いと子供らしく遊ぶ時間が制限されます。また,子供が周りと違う行動をとると罰する風潮があるように受け取りました。子供の個性を摘み取る結果につながっています。

 

反対に,唯一子供にとってプラスになると思ったもの。それは豊かな「自然体験」です。幼少期の自然体験は子供に身体能力の向上や命の重みの理解,行動力をつけさせるのにとても良いそうです。

 

自給自足のエコな暮らしを実践されている人は増えてきています。そういう意味ではひと昔前からそういう生活スタイルを提案していたのは先見の明ありとも取れますが,組織化するのは賛成できません。抜けたくても抜けられない人が出てきてしまうからです。

 

幸い,作者のかやさんは19歳で村を出る決意をし,素敵な旦那さんを見つけて幸せに暮らしています。ですがお金を持たざる暮らしをする村からお金を必要とする資本主義社会に出て生活していくのは大変な苦労もあったとのことです。

 

統制の厳しい組織は是か非か

今回の村の生活は,非常に厳しい統制の元成り立っています。こういった組織は社会の至る所に散見されます。

例えば強豪校の部活動,修行僧や自衛隊での活動もそうですね。こういった組織はそれぞれの目標のために自らを律する必要があると考えています。そういう意味では意義のあるルールであり戒律であるとも言えます。

しかし,厳しい組織は閉じたコミュニティになり,権力の乱用が起きやすく体罰やいじめを助長しがちなのが問題点です。実際にそういう事件が頻発していますよね。

 

 他に,目標のためではなく,贖罪・更生のために統制が厳しい組織があります。刑務所です。

堀江貴文さん著の『刑務所なう。』は刑務所生活の実体験を記した本です。驚くほど厳しく細かいルールがあり,自由を制限されている様子がうかがえます。 生活の中のほとんどの自由を制限され,たまに与えられる自由や娯楽に深い感動を覚えるという部分がカルト村と共通していました。

このように組織として目的を持ち,それを実現するためにある程度の統制を敷くことは有効であると考えます。しかし統制が厳しくなるほど個性の尊重が犠牲になるということは意識すべきだと思います。 

 

人間の尊厳を無視した制限の先にある

最後に,最も極端な「制限」の例を紹介します。アウシュビッツ強制収容所での生活です。

実際にアウシュビッツに収容された体験記である『夜と霧』にて,著者は人間の尊厳を無視した過酷な生活を余技なくされます。しかし,著者はこの過酷な生活において外的な環境に対する反応を選ぶのは自分の自由だという気づきを得ました。先ほどから言っていた「自由の制限」はほとんど身体的なものです。人は身体的な自由を制限されると自然と心まで影響されてしまいます。しかしその実,心は制限できないのです。そのため,身体的に自由を制限された時に最も重要なのは「心の自由」を忘れないでいることです。環境が選べなくても,その環境に反応する心は選べるのです。

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録

 

 

まとめ

カルト村という独特の組織の中で生まれ育った作者の目線から,ほんわかした絵柄ながらも驚くべき日常が綴られていてとても興味深く読みました。

この本を読んで,子供の成長環境については親が慎重に考えるべき問題だと言う事と,同様に統制の厳しい組織の例をあげてみました。

このカルト村の話は続編も出ているようなのでまた読みたいと思います。